こんにちは,EPHです.
今日は細胞膜の電気特性を計測する方法について,お話しします.
2年前に私がMolecular DevicesのpClamp 9を使ってパッチクランプ実験を始めましたが,
どうにも腑に落ちない点がありました.
それは,このソフトウェア上のMembrane Testがどうやって細胞膜特性(すなわち,膜抵抗と膜キャパシタンス)を計測しているかのアルゴリズムについてでした.
マニュアルのChapter 10には,その方法が詳細に書かれているのですが,この説明は私に取っては不親切でした.
なので,私なりに理解したものを以下に記載したいと思います.
マニュアルによると,等価回路は以下のように示されています(Figure 4.1).
(pClamp 10 manualより)
Ra: パイペットのAccess Resistance
Rm: 細胞のResistance
Rseal: パッチクランプ時のシールResistance
Cm: 細胞のCapacitance
Vm: 細胞に実際にかかっている電圧変化(指令電圧変化が5mVでも,パイペット抵抗の存在によって実際には5mVよりも小さな電圧が細胞に印加される)
もし,ギガオームのシールが確立できた場合,Rsealを流れる電流は無視する事ができます.
そこで,以降の等価回路では,Pathway1を流れる電流を無視した形で検討を進めます.
ここに,depolarizeを起こさない程度の小さな電圧変化(例えば5mV)を印加し,
そのときの過渡応答(Figure 10.2)を見る事で,Rm, Cmを推定します.
Imax: 電圧印加直後の電流量をImax
I1: 定常状態になったときの電流量
Tau: 過渡応答の時定数
まず,
delta_I =delta_V/(Ra+Rm) → Ra+Rm = delta_V/delta_I
の関係から,Ra+Rmの値を求める事ができます.
この等価回路から,Tau = Rm*Ra/(Rm+Ra) * Cmとなります(脚注参照).
一般的に,Rm >> Raなので,Rm*Ra/(Rm+Ra) ≅ Raと見なす事ができ,
Tau ≅ Ra * Cmと推定できます.
ここで整理すると,推定したい未知な物理量はCm, Rmです.
Raは既知量(細胞にアプローチする前に計測済み),Tauは過渡応答から求められているので,
Cm ≅ Tau/Ra
で求まります.
また,Rmの値は,Ra+Rm = delta_V/delta_Iから,Rm= delta_V/delta_I – Raによって求められます.
まとめると,
1) パイペットのAccess ResistanceであるRaを求める.
2) 過渡応答から時定数Tauを求める.
3) 定常応答から,deltaIを求める.
4) Tau/Raを計算して,膜キャパシタンスCmを求める.
5) deltaI/deltaV-Raにより,膜抵抗Rmを求める.
というステップになります.
なお,delta_VmはFigure 10.3のように2つの抵抗で分圧されるので,
delta_Vm = Rm/(Ra+Rm) * delta_V
となります.
[脚注]
並列RC回路の過渡応答については多くの解き方がありますが,シンプルなものは以下のものです.
基本的な事柄として,RC回路の過渡応答は電源電圧に依存しません.
それゆえに,並列回路の電源を短絡すると,RaとRmは並列抵抗に見なせます.
この並列抵抗の合成抵抗を求めると,並列RC回路が等価の直列RC回路に変換できます.
参考文献
Gillis, K. Techniques for Membrane Capacitance Measurements, in Single-Channel Recording (eds Bert Sakmann & Erwin Neher) Ch. 7, 155-198 (Springer US, 1995).
末武国弘,基礎電気回路 2,培風館, 1980.