世界の中心,ニューヨーク・マンハッタン.ここは多くの人を引きつけてやまない魅力がある.
きらびやかなブロードウェイミュージカル.
伝統的なクラシック音楽,オペラ.
ファッションの一大発信地.
地球上の誰もが,この土地にやってきたいと思える場所.1年中,観光客の足が途絶えることはない.
そんなマンハッタンにあって,マンハッタンの観光地図には載らない地域.168th Street Broadway, New York, NY.
ほとんどの日本人はその場所がマンハッタンなのかそうでないのか予想もつかないだろう.
そこはブロンクスですか?という言う人もあるかもしれない.
多くのアメリカ人も,168番通がどこにあるのかを答えることは,この地域に来たことがない限り知る由もない.
ここはれっきとしたマンハッタンの中にある.ニューヨークの中でも巨大な病院の1つがあり,
多くの人,もとい,”患者”が日々行き交っている.
何らかの事故,もしくは兵役で片足を失った人.
呼吸を補助するガスボンベを持って歩く人.
電動の車いすを器用に乗りこなし,人々の間をぬうようにして病棟に向かう人.
加えれば,ここは全米でも随一の研究機関が併設されていて,偉大なる研究者が集う場所でもある.
ポスドクと呼ばれる博士号を取得した研究者やその卵である学生が日夜,科学の進展の為に心血を注ぐ.
そんなデモグラフィにあって,このコミュニティは特殊で不思議であり,普通では理解しがたいことがたくさん起こっている.
人生訓を含んだものもあれば,ただ腹を抱えて笑うしかない,
そうでもしないとやりきれない,そんな経験が入り交じる空間.
岡田光世さんが書き綴っている「ニューヨークの魔法」シリーズはご存知だろうか.
著者がニューヨークで過ごした日々と,そこに住む心温まる交流.NYCが魅せるマジックは,
人生観を180度変えうるものがある.
そこには,多くの日本人が描く夢の街ニューヨークの姿が立ち現れている.
では,この168番通りではどうだろう.
多くの人がニューヨーク・マンハッタンとは認識できない空間.
キラキラした42番通りやクライスラービルを遠くの彼方に眺め,おしゃれな五番街にはほど遠く,
むしろ猥雑とさえ感じるこの地域は,観光でやってくる来客に見せたい類いの風景では決してない.
2012年にポスドクと言われる身分でやってきた僕は,それでもこの周りに住み着き,多くの人に出会い,生かされてきた.
最高の体験もあれば,最悪の事件もあった.
このエリアのキャッチフレーズは,Amazing Things Are Happening Here.
赤いバックグラウンドに白抜きで書かれたその文字のフラッグを最初に見たときに,
僕はただふーんとしか思わなかった.
けれど,その通りだなと言うことが今の僕にはできる.
最悪だけれども,アメイジングなことは,確かにここで起きている.
ブロードウェイ168番通りを中心に繰り広げられる,ちょっとした話を書いてゆきたいと思う.
どうぞお付き合いください.
(c) Masashi Nakatani
ちぢれ毛の彼女を連れたネルソン
ブロンドのガードマン
帝国チャイニーズ食堂
リサーチポスターは潮風に吹かれて
The Hudson River Cafe